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奈良・桜井の歴史と社会

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神武東征を「神々の系譜」で見てみた

神々の系譜(日本神話の謎) 松前健著 吉川弘文館

1972年に書かれた本である。このほど、これが復刊された。今年の2月であるからまだ新刊といえよう。

目次だけを紹介しよう。
「世のはじめの神々」としてイザナギ・イザナミの誕生などを語り、
つづいて「日・月二神とスサノオの崇拝」
「高天原の神話」
「出雲神話の謎」
「日向神話の世界」
「神武の東征」である。


僕の紹介は、今日は神武東征だけである。
日向発の神武東征については、いま僕が考えているテーマだった。
「日向(ひむか)」という名称も、古くは単に南九州の国には限らず、方々にそうした地名があった。おそらく、もともとは朝日・夕陽の照らす陽光の地を表す一般的な名称であろう。

日向はあちこちにあるが、わざわざ遠い南九州の日向国が選ばれて、皇孫の天降りの地とされたのには、必ず理由があるはずである。

恐らく古くこの地に隼人の有力な豪族がいて、皇室と結びつき、その伝える地方的な霊格と、皇室の祖先の御子の一人とが同一視され、宮廷の神話体系の中に組み込まれたのかもしれない。
隼人にそれだけの力を認めても良いだろうか・・というのが僕の素直な感想だ。


神武東征である。
まずは大和に入る前である。
兄弟はイツセノ命、イナヒノ命、ミケヌノ命、カムヤマトイワレビコノ命(ワカミケヌノ命)である。

難波から大和を攻めて孔舎衙坂(くさかのさか)でイツセノ命は重傷を負う。
迂回しようと紀伊半島の南端で暴風雨にあい、イナヒノ命、ミケヌノ命は波頭に消える。

松前健さんはこの熊野経由の大和侵入に意見がある。
大和については独立の神話とされる。
カムヤマトイワレビコは「神聖な大和の磐余の首長」という意味で、
相手のナガスネビコ一名トミビコは「大和の鳥見の首長」という意味。
大和の二人の英雄の戦いだと断定された。

ところが、前段の熊野、これは別の神話だと、合体させたと松前さんは言うのである。
熊野本宮も熊野大社も祭神は、「ケ」であり「ミケ」で食物という意味が含まれる。
カムヤマトの別名や他の兄弟の名前には、「ケ」や「ミケ」が含まれ、これは熊野の神の死と復活を語る霊験譚だというのでる。そして、この熊野の神話が朝廷に取り上げられたのは7世紀初めとのことである。
熊野を訪れた神がさまざま苦労し、いったん死んでも蘇生し、八咫烏の導きで切り抜けるという霊験譚である。

大和に入ってからのカムヤマトイワレビコの活躍の紹介も松前流である。
忍坂で八十建の一族を全滅させる。久米歌、久米の舞が舞われるが、これは今も橿原神具で歌われ踊られる。4月29日、昭和の日である。
大和に侵入してからは道臣命と久米命の活躍ばかりに焦点が当たる。

大和におけるカムヤマトイワレビコの活躍は、神武東征聖蹟碑でもたどることが出来る。
もちろん神話の世界であるが、これを現代に石碑で具体化した。
評価は様々だが、7世紀の人たちが何を考えていたかを現代(戦前だが)に「石碑で示した」ものである。

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大和におけるカムヤマトイワレビコ命、エウガシとたたかった血原。菟田穿邑(うだのうかちのむら)顕彰碑

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ナガスネビコを撃った時の磐余邑(いわれのむら)顕彰碑


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ヒメタタライスケヨリヒメを求めた狭井河之上(さいがはのほとり)顕彰碑

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カムヤマトイワレビコの祭、鳥見山中霊畤(とみのやまのなかのまつりのには)顕彰碑


神武東征の説話ができたのは、日向神話が朝廷に入り込んだ後のことであり、また出雲神話が朝廷に入りこむ前であったと思われる。私は日向神話の朝廷受け入れは、たぶん五世紀初頭、出雲神話の採用は多分7世紀中葉と思っているから、その中間であろうと思っている。この神武説話は、日向から東征の出発を、前提にしているから、日向神話がなければ成立しない。また、出雲神話が知られてから後ならば、東征の途中で出雲に立ち寄らないはずはないのである。


出雲神話、日向神話を検討したのちに、松前先生はこう結論づけた。
これは40年前の本で、今年復刻という本である。こんな結論、いかがでしょうか。
これ以外にも独創的な論点が数多くで、とても面白く、おすすめである。
by koza5555 | 2016-04-11 23:03 | 読書
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