談山神社の社報は『談』(かたらひ)である。桜井市の全域での新聞折り込みと「談の会」(崇敬会)会員に郵送で配布される。
この社報の2ページ目が僕の担当で、7月15日号は、談山神社の神事に奉仕される「談山雅楽会」を紹介した。
談山神社の四季折々の神事には、雅楽の伴奏が欠かせない。
神事の始めは神職の参進(入場)である。この参進に合わせて厳かな雅楽の伴奏が行われる。神事がすすみご本殿の開扉となる。ここではしめやかに笙(しょう)が奏でられる。献饌、玉串奉奠、撤饌、閉扉、退下と進行に合わせて雅楽の演奏は続く。談山神社では、この雅楽を談山雅楽会がほうしする。
「神事にあたり雅楽会の奏者がまず入場、整列して着席します。参列者のみなさんは、私たちの姿を見て、坐り直されたり、姿勢を正されたりするのです。始まるなという緊張感を共有できます。神職が参進、そこで演奏を始めます」と、談山雅楽会の松本永二郎代表が語られる。松本さんは「神さまは音楽が好きなんです。神様に喜んでいただきながら、神事の進行を支えるのが雅楽です」と、雅楽会の役割も説明される。
この談山雅楽会は平成7年に結成された。「雅楽を習いましょう。演奏しませんか」と談山神社が呼びかけて同好者が集まった。談山雅楽会としての形を整えて20年以上も神事の雅楽奉仕を務め、演奏力の向上のために練習を続けてきたのである。
笙を吹く久保順子さんは結成当時からの会員である。久保さんに雅楽への思いをお聞きすると、「何も知らずに雅楽を始めました。子供のころから親しんだ談山神社が、雅楽の奉仕者を求めていると知り応募しました。20年以上、笙を吹いてまいりました」と神社への思いを語っていただき、「みんなで雅楽の練習を重ねて、神さまの前に並んで一心に奉納の演奏をするのが好きなのです」と話される。
練習風景である
その言葉を受けて、松本代表は「談山神社は雅楽演奏の最高のロケーションです。ご本殿前の演奏があります。いつでも心が引き締まります。神幸祭と春・秋の蹴鞠祭での道楽(みちがく・歩きながらの演奏)もやりがいがあります。屋外ですから力一杯吹いても、音は空に散って行きます。力を込めて吹く、息は苦しいがやりがいのあるすばらしい経験です」と語られた。
松本永二郎 談山雅楽会代表
神廟拝所での雅楽奉仕は観音講祭だけである。江戸時代まではお寺の講堂として使われてきた神廟拝所の音響効果は抜群で、そのうえ、ここにはとっておきの壁画が描かれているのだ。上部欄間の壁画には笙(しょう)、鼓(つづみ)・太鼓などで天女が雅楽を演奏し、舞う姿が描かれている。こちらの神事では、雅楽会が演奏して音を出し、壁画の天女奏楽図も無音の演奏をするのです。「ここだけ、この日だけ」の感動を味わうことができるのである。
観音講祭は毎年、6月の第四日曜日、今年は終えたばかりだが、来年はぜひ訪れていただきたい。
神廟拝所、壁画
もともと談山神社(妙楽寺)は能楽が生まれ育った場所とされる。中世から近世にかけての多武峰の猿楽(現在の能楽のこと)は、大和四座(金春・金剛・観世・宝生)が一堂に参勤する盛大なものだった。こちらでは毎年、新演目が披露され、これが猿楽の発展に寄与したとされている。
談山神社は音楽と芸が溶け合った芸能の地で、こんな場所で生また談山雅楽会、その演奏と活動に期待を寄せて、注目してゆきたい。
談山雅楽会が奉仕する談山神社の祭祀は以下のとおりである。
1月 福禄寿大祭 雅楽始め
4月 神幸祭と蹴鞠祭
6月 観音講と鏡大王祭
8月 献灯祭
10月 嘉吉祭
11月 蹴鞠祭と新嘗祭
神社外では三輪戎神社(初えびす)、等彌神社(大学ゆり祭)、與喜天満神社(初瀬まつり)、妙顕寺(大阪府)に奉仕している。
申し込みにもとづき各種団体、施設、学校、社寺などへの出張演奏も行う。
雅楽会は入会を、常時受け付けている。参加条件はなく、会費は無料。練習は原則第2・第4土曜日の午後、談山神社境内で行う。