「土笛」 竹内もと代。くもん出版からで少年少女向け(小学校高学年?)だろうか。
古事記、日本書紀にもとづく「イワレビコの東征」をテーマにした児童小説である。
「土笛」とあるから、連想できるだろうが、イワレビコによって攻め滅ぼされる「土蜘蛛族」が主人公である。
「攻められる側の痛みに立つことで、家族や生まれ故郷を思う気持ち、失われる命の切なさなども描きたかった」(作者より)とあり、穿(うがち)のエウカシとその娘が活躍する。
楽しく読むことができた。
二つの着想に感心した。
一つはエウカシとオトウカシは朱砂(すさ)(丹、水銀のこと)の分配をめぐっての争いがあり、そこから分断されたとされている。
なるほどなあ。
イワレビコは大陸との交流が強い先進部族で、朱砂の価値を十二分に理解していた。
この知識をもとにオトウカシを誘ったという分析でとても面白い。
いま一つは穿のエウカシが殺されるところのエピソードである。
イワレビコとの対面のための仮宮にエウガシが罠を作ったと言われている。
逆にそのたくらみを見破られ、その罠にかかりエウカシは押しつぶされたとなっているが、竹内さんはここがおかしいと言う。
「宇陀の高城に鴫(しぎ)をとるワナを張って、俺が待っていると鴫はかからず鷹がかかった。これは大漁だ」(イワレビコが歌を詠んで。久米歌として残されている)ということで、イワレビコ自身があからさまにワナを仕掛けたのは俺だと言っている。
エウカシはだまし討ちなどはしない勇者だと称えられるし、自らの計略を歌に残したイワレビコも立派だということである。
竹内さんはこの出来事をエウカシの娘、ミズハの目を通して書き連ねていく。
しかもこのミズハが実はミツハノメのよりしろという設定で、神の使いにもなっている。
奈良県の歴史をもう一つの面から見た思いである。
ところで、「エウカシ、オトウカシ」、「日本神話に導かれて」の竹内もと代さんの講演会が菟田野で開催される。
10月14日(日)、会場は菟田野農林センターで午前講演、午後ウォーキングである。
これは面白そうである。僕は日程が合わないが…